A.歯ぐきの粘膜はとても軟らかく、痛みに敏感な所です。
本来、歯ぐきは、入れ歯という硬いプラスチック製の異物が乗っかる場所ではありません。
粘膜にとっては入れ歯を装着しているだけでも、負担が加わっているのです。
歯ぐきはアゴの骨を覆っていますが、年齢が高くなるにつれて、粘膜が薄くなり、弾力性が落ちてきます。
アゴの骨も吸収して、アゴが低く、小さくなってきます。
また、唾液の分泌量も減り、潤滑作用も低下します。
その歯ぐきの上に、硬いプラスチック製の入れ歯が乗っています。
噛んだ時の衝撃がダイレクトにアゴの骨に伝われば、痛みになるのも当然でしょう。
噛んだ時の衝撃が歯ぐきの粘膜で一旦吸収され、それからアゴの骨に伝われば、大きな痛みはないかもしれません。
しかし、入れ歯が安定していない、「ガタガタ」して外れやすい、よく噛めない、歯ぐきが擦れて痛い、食べかすが入れ歯の内側に入り込む、この悪循環を解消しなければ、痛くない入れ歯にはなりません。
どうしたら、食べた時に痛くない入れ歯になるのでしょう。
そのためには、5つの条件をクリアしなければなりません。
⑴ 入れ歯を歯ぐきによく適合させること
入れ歯の辺縁が周囲の粘膜によって隙間なく包み込まれ、ものを噛んだり、話をしたりした時に入れ歯と粘膜の間に空気が入り込まないようにすることで歯ぐきと入れ歯が擦れることなく、痛みの出る確率は非常に少なくなる。
⑵ 噛み合わせの位置が正しいこと
「噛む」という運動は、運動を開始する出発点と到達点の間を滑らかでリズミカルなアゴの動きです。
その動きが定まらず、自分でよく噛めるアゴの位置を試行錯誤で見つけて、その偏った位置ばかりで食事をしている方がいます。
それはぎこちなく、噛む場所を探しながらではとても食事はできません。
⑶ 入れ歯の歯が均等に接触していること
噛み癖、左右どちらか一方でだけ噛む、前歯でだけ噛む、特定の決まった位置だけで噛む。この時入れ歯が顎にしっかりと合っていないと、隙間の空いた方が、上は入れ歯が落ちようとし、下は入れ歯が浮き上がろうとします。
⑷ アゴの動きと噛み合わせが協調していること
入れ歯のどこかの歯が一つでも先に当てっている所があると入れ歯に痛みが出たり、動いたり、外れやすくなり、入れ歯が安定しません。
このような場合、上下の歯の擦り合わせ(削合)を行い、すべての歯が均等に接触するようにします。
この作業を口の中で行うのは、難しく技術と経験が必要になります。
技工室でアゴの動きを模倣できる「咬合器」という器具に入れ歯を取り付け、「リマウント」という作業を行い、入れ歯製作時に生じた「誤差」咬合調整を技工士がおこない、上下の人工歯が均一に接触するようにします。
⑸ 入れ歯を入れた後の定期的な調整がしっかり行われていること
入れ歯は出来上がり患者さんの口の中に入ってしまえば終わりではありません。
入れ歯は実際に患者さんに使ってもらい初めて分かるものです。
軟らかい粘膜に硬いプラスチック製の入れ歯ですから、痛みを我慢するのではなく、適切な調整をすることが必要です。
入れ歯で食事をすると痛くなるのは、入れ歯が軟らかい粘膜の上に乗っている、その粘膜の下にはアゴの骨が隠れている、入れ歯は硬いプラスチックで作られている、などを御理解いただき上手に使いこなしてください。
2017-02-10