A.歯に詰めたり、被せる材料は様々ですが、その硬さによっては、噛み合う天然歯を摩耗させたり、破折させる原因となります。
歯と補綴物との硬さにも相性があるのです。
見た目の美しさから、セラミックが用いられることが多いのですが、天然歯のエナメル質の硬さを表すビッカース硬度は、270~366HVに比べ、セラミックは、400~485HVと硬すぎるというマイナス要素があります。
かぶせ物が壊れにくいという利点がある反面、噛み合う天然歯を摩耗させるか、破折させる原因になります。
かぶせ物が装着された時には、周りの歯と同様に精密に噛み合わせを調整されているのですが、経時的に材料の硬さの違いから、上下、左右、隣在歯に不調和が生じてくるのです。
この事は、あまり患者さんに伝えられることはありませんでした。
歯の治療が済んで、かぶせ物について歯科医から「最も審美性に優れ、壊れにくい歯がセラミックです」と説明があれば、何も知らない患者さんは、「セラミックでお願いします」と答えるでしょう。
硬さということばは、きわめて日常的に用いられていますが、物体の変形しにくさ、傷つきにくさ、硬さを厳密に定義することは困難です。
河原の石を擦り合せて、石の硬さを比べたことがありますか?鉱物の硬さを表すには、普通モース硬さスケールを使って数値で表します。鉱物の平らな面に引っかき傷がつくかどうかで、傷のついた鉱物の硬さが小さいことを知る硬さ試験です。
工業的には、数種類の硬さ試験法から得られた数値を硬さと定義しています。
① 硬い材料ほど物を押し込むのに大きな力を必要とすることを利用した押し込み硬さ試験(ブリネル硬さ試験、ビッカース硬さ試験、ロックウェル硬さ試験)
② 硬い材料ほど反発が大きいことを利用した反発硬さ試験(シャア硬さ試験)
③ 硬い材料ほど引っかき傷ができにくいことを利用した引っかき硬さ試験(マルテンス引っかき硬さ試験)
などがあり、いずれの試験法においても得られた硬さ値が大きい材料ほど硬いことを意味します。
それらの硬さ試験のなかで歯科材料をビッカース硬さ試験(押込み硬さ試験で、ダイヤモンドでできた剛体(圧子)を被試験物に対して押込み、くぼみ(圧痕)を作り、圧子を取り去った後に残る圧痕の表面積の大小で硬いか柔らかいかを判断する)
の数値で表すにするとこのようになります。
主な歯の修復に使われる材料のビッカース硬度
<天然歯よりも硬い>
ジルコニア 1300Hv
セラミック 400~485Hv
18K合金 400Hv
天然歯(エナメル質) 270~366Hv
<天然歯より軟らかい>
12%パラジューム合金 227Hv
20K合金 220Hv
ハイブリットレジン 190Hv
硬質レジン歯 30Hv
硬さは材料を選択するうえで重要な指標になります。
入れ歯を作製する場合でも
天然歯よりも硬い材料は、審美的にも優れ、強度に優れ、長期安定した修復物になりますが、天然歯の破折、摩耗の原因となる恐れもあります。
天然歯よりも軟らかい材料は、天然歯を痛めることはありませんが、欠けたり、擦り減り、噛み合わせが低くなったり、ずれて噛んでしまうことがあります。
歯の修復の材料は、口腔内の状態を十分に把握し、患者さんに合わせた材料の選択が重要です。診断を元に、歯科医とよく相談して決める必要があります。
2015-10-02