真夜中の4時です。技工室にいます。
今日の午後に来院される患者さんの上下の総入れ歯がやっと出来上がりました。
この入れ歯が患者さんに喜んで貰えるだろうか
私は、仕事をギリギリまで貯め込んでしまうので、入れ歯の仕上がりが、その日の朝になることも珍しくありません。
夜の方が仕事に集中できて、はかどることもありますが、
この患者さんは、82歳の男性です。上下の総入れ歯です。上顎の入れ歯は口を開けると落ちてきて、下顎の入れ歯は、プールに浮かぶ浮き輪のように口腔内を漂っています。
上下とも、入れ歯安定剤なしでは入れ歯を入れて置くこともできませんし、食事をすることもできませんでした。
患者さんの日課は、毎朝、入れ歯安定剤を貼ることでした。入れ歯安定剤を外出する時は必ず持ち歩いて、食事の前には、人目を忍んで安定剤を追加しながら入れ歯を使っていました。
入れ歯安定剤のベトベトの不快感に閉口しながらも、使い続けていたのです。
最近では、頼みの入れ歯安定剤も効かなくなってきたようです。
徹夜明けの朝早く、患者さんから電話がありました。
患者さん『今日、午後に予約しているが、早く行ってもいいかな？』
私「何か用事でも出来ましたか」
患者さん「入れ歯が入るのが待ちきれなくて寝付けなかったんだよ。私の入れ歯は出来上がっているかね？楽しみだから、早く行って入れてほしいんだ」という電話でした。
私「でも、予約があります。早く来て頂いても早く、入れ歯を装着できる訳ではありませんよ」と説明しました。
患者さん「そうだな、ところで新しい入れ歯の出来はどうかね」
私「入れ歯は、ちゃんとできていますよ。今朝の４時頃出来たばかりです」
患者さん「へーえそうか、４時頃か、私が目が覚めて、眠れなくなった頃だな」
患者さんと思いが、少し通じた気がしました。
午後、予約時間通りに患者さんが、来院され、無事に入れ歯が装着され、帰られました。
この話には続きがあります。
自宅に帰りつかれた頃を見計らって、患者さんに私が電話をしました。
早速、食事をして見たが、痛みもなく、食べられたと、喜ばれていました。
私｢痛みがあれば、電話してください｣
翌日、患者さんから、電話がありました。
「もう、安定剤がいらなくなったよ、新しい入れ歯のコツもつかめてきた、少しゆるいのは、今度、診てくれ、ホントにありがとう」
私「良かったですね。こちらこそ、喜んでいただける入れ歯が作れて、うれしいです。ありがとうございます」
こんなに入れ歯を待ち望んでいる患者さんがいるなんて、ありがたいですね。
技工士冥利につきるとはこのことです。
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2015-02-27
