1983年、もう3２年前の話です。
私が技工士になって、初めて勤務した、日本歯学センターには、当時から、著名な財界人が沢山、歯の治療に通院されていました。
ホンダ技研工業の創始者、本田宗一郎さんもその一人でした。
本田さんの歯の治療も一段落した頃でした。
いつものように歯科の治療台に座っていた本田さんが、技工士の私を見つけて、「ちょっと」と呼ぶのです。
近づくと、小さな声で「俺に、牙を作ってくれ」というのです。
私が「ドラキュラの歯ですか？」と聞くと
「そうだ、今度のパーティで、みんなを驚かしてやりてぇんだ」
すぐに、日本歯学センター所長である田北敏行先生に聞いてみると、意外にも、笑いながら「作ってあげたら」というのです。
本田さんと田北先生は、ほんとに、仲が良く、「本田宗一郎との100時間 人間紀行』城山三郎著にも「アメリカ帰りの腕のいい歯医者を見つけた」と紹介されています。
1983年当時、本田さんは、本田技研工業の社長から最高顧問に退かれて、青山の本社ビルが完成し、ホンダが誇る高級車、レジェンドが発売された頃でした。
当時、本田さんの前歯には、私が作った6本のセラミックの前歯が入っていました。
そこで、私が作ったドラキュラの牙は、映画の特殊メイクのようなに、下唇の外側にまで2本の牙が延びた、自分で取り外しができる入れ歯でした。
次の来院時に、お渡しすると「ありがとう」と嬉しそうに持って、帰られました。
その後、恒例の本田さんのご自宅の庭にホタルを放っておこなわれるパーティを開催されました。
早速、本田さんは、そのパーティで私の作ったドラキュラの牙をつけて、来賓のご婦人を驚かせたそうです。
そして、奥様に、こっぴどく怒られて、ドラキュラの牙は、取り上げられてしまったそうです。後日、パーティに出席した田北先生が教えてくれました。
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2015-02-18
