ご夫婦で通われている患者さんです。
奥さんは７８歳です。以前、通院していた歯科医院で
患者さん「あんたね、２年も通って、いまだに噛めない痛いって、どうゆうこと!!」
その院長と喧嘩をして、あさひクリニックへ転院してきました。
上顎は総入れ歯で、下顎は犬歯が2本残っています。
入れ歯が外れやすく安定しませんでした。
あさひクリニックでは、その歯をマグネットにしました。
入れ歯の痛みや噛み合わせを治療用の入れ歯を入れて
納得いくまで調整をおこない、その上で、金属床の本入れ歯を作りました。
ご主人は、お孫さんが矯正治療をされている歯科クリニックで、入れ歯を作りましたが、
孫の矯正治療が一段落するというのに、ご主人の入れ歯は、一向に良くなりません。
奥さんの入れ歯をみて、『俺も行くから紹介してくれ』と、あさひクリニックへ転院されました。
ご主人は86歳で、上下顎とも総入れ歯です。
入れ歯が、緩くて、落ち着かず、痛みがありました。
あさひクリニックでは、入れ歯の内面に生体シリコンを貼ったソフト入れ歯を作りました。上下とも、痛みもなくなりました。１度目の調整で「何でも食べられる」と喜ばれました。
そんな奥さんが、約２年ぶりに、お嫁さんが付き添われて来院されました。
以前よりも、かなり痩せていました。
患者さん「最近、入れ歯が入れていられないの、入れ歯を入れると吐き気がするし、
入れ歯を入れて食事ができなくなって、食欲がないの」
使用中の入れ歯は、私が作った入れ歯です。
安定を優先して作ったので、全体的に大きく、吐き気が出たのでしょう。
そこで、上顎の口蓋をくり抜いた無口蓋の入れ歯に作り替えて、
吐き気が少なく、入れて食事ができる入れ歯を作ることになりました。
以前なら、『新しく入れ歯を作ってください』と患者さんが、自分で決断されていましたが、
今回は、付き添われたお嫁さんが、
「帰ってから、連絡します」とお帰りになりました。
その日の内に、「新しい入れ歯は作らないでください」と断りの電話がありました。
お嫁さんからでした。
家族でどんな話し合いがあったのかは、わかりませんが、
私は、「食事ができないのなら、新しく入れ歯を作ってあげればいいのに」と思いました。
翌日、患者さんから、電話がありました。
患者さん「昨夜、主人が帰って来てから、入れ歯の話をしたら、『なんで、断った！早く作ってもらいなさい』と言われた。入れ歯は、予定通りお願いします」
それ以降は、付き添いは息子さんに代わりました。
お嫁さんは来なくなりました。
息子さんの表情が暗いのです。何があったのでしょうか？
新しい入れ歯は、1か月後に出来上がりました。
1週間後の最初の調整では、
「入れ歯を入れられるようになった」
「吐き気も少なくなった」
患者さん「でも、食欲がなく、おいしくない」
私「どうしてですかね」
患者さん「私にもわかりません」
私「色々、食べて教えてください。来週も調整に来てくださいね」
2週間後の2回目の調整は、「病院に行くので」とキャンセルの電話がありました。
入れ歯を装着して3週間と1日目にご主人が来院しました。
ご主人「家内が、昨日、昼飯を食べている時に具合が悪くなって、病院に連れて行ったが午後3時には亡くなった」
私「えっ、そんなに急に、病院に行ってですか」
ご主人「そうです。食事は入れ歯を入れて食べていた」
後から、息子さんに話を聞くと
患者さんは末期ガンで、あちこちにガンが転移して、手の施しようがなかったのです。
そのことを知っていたのは、息子さんとお嫁さんだけで、
奥さんだけではなく、ご主人にも知らせてはいないのだそうです。
だから、新しく入れ歯を作ることを躊躇っていたのでしょう。
患者さんの話だけを聞いて、お嫁さんを悪者にしてしまいました。
『申し訳ありません』
1番辛いのは、息子さん夫婦でしたね。
これからも、ご主人には、ずっと内緒にするそうです。
新しく入れ歯が入れば、食欲が出て、おいしく食事ができて、栄養が取れて、元気になってくれると期待するのでしょう。
痛くなく、食べられる入れ歯ならば、余程のことがない限り、作る自信があります。
この患者さんの入れ歯は、作って3週間足らずの入れ歯でした。
患者さんに、「生きる希望を与えてくれる入れ歯」だったのでしょうか？
最後の食事に使えてもらえたことが、唯一の救いです。
入れ歯（総入れ歯、部分入れ歯）専門の東京あさひクリニック・歯科
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2015-03-20
